「ダヤニータ・シン インドの大きな家の美術館」展
東京都目黒区にある東京都写真美術館は、2017年の今年、総合開館20周年を迎える。
そんななか、東京都写真美術館は総合開館20周年の記念展として「ダヤニータ・シン インドの大きな家の美術館」展を開催した。
ダヤニータ・シン。
1961年にインド・ニューデリーで生まれた彼女は、世界で最も活躍する写真家のひとり。
フォトジャーナリストとしてキャリアを積みつつも、外国人が期待するインドのイメージ、すなわち「エキゾチックさ」や「貧困と混沌」といったステレオタイプに疑問をもつようになる。
それから1990年代後半、一アーティストとして新たなスタイルの写真を撮るようになる。
本展覧会の魅力は、大きく分けて2つある。
一つは、ダヤニータがアーティストとして新たな試みを拓いた移動式の美術館「インドの大きな家の美術館(Museum Bhavan)」。
チーク材で作られた高さ189cm、幅109cmの折りたたみ式ポータブル構造物のそれは、142点もの額装された作品を収納することができ、さらに「美術館」として鑑賞できるようにはめ込まれた作品は、全部で40点。
一点一点を鑑賞するのと同時に、隣や前後の作品が干渉し、シークエンスとして写真を観ることができる。
組み合わせを自由に変えることのできる、まさに「生きる美術館」だ。
ダヤニータは、フリーペーパー『東京都写真美術館ニュースeyes90』にて次のように話している。
「写真はわかりやすいイメージのようでありながら実は見る人によってまったく違う解釈が成り立つ難しいメディアです。(中略)大きさや形式といったいろいろな要素を組み合わせながら、シークエンスをつくり、言葉にはできない物語を編んでいく。」
ダヤニータの「インドの大きな家の美術館」は、鑑賞者によって様々な解釈や物語を、無限に生みだす「写真の新たな可能性」を切り拓いたと言えるだろう。
二つ目の見どころは、ダニーヤが13年間写真に捉え続けた1人の人間の写真である。
彼女の名は、<マイセルフ・モナ・アハメド>。
男でも女でもない「第三の性」、ユーナック(去勢された男性)である。
社会の周縁に追いやられたユーナックのコミュニティは、当時100万人を超えていたと言われている。
「墓地で暮らしはじめたとき、家族はわたしの気が狂ってしまったと思い込み、わたしは精神病院に入院させられた。この墓地に来たのは、町の暮らしの見せかけだけの華やかさに我慢ができなかったから。わたしは世の中の人びとが偽りの仮面をかぶったまま暮らしていることが大嫌いだった」(東京都写真美術館 ダニーヤ・シン 大きな家の美術館展 出品リスト キャプションより引用)
まっすぐに生きようとすればするほど、社会から周縁に追いやられてしまう。
そんな苦しみのなかで、モナを救ったのは1人の養女、アーイシャだった。
本展覧会では、アーイシャ1歳の誕生日を祝うモナの姿から物語がスタートする。
苦悩・歓喜・愛情。まっすぐに、自分らしく生きるモナの「人間らしさ」がにじみ出る写真を、13年に亘って追うことができる。
ダニーヤ・シン インドの大きな家の美術館展は、2017年7月17日まで。
今もなお、息づく「生きる写真」に、あなたもぜひ足をお運びください。
【概要】
ダニーヤ・シン インドの大きな家の美術館展
開催期間:2017/05/20~2017/07/17
開館時間10時00分~18時00分(木・金は20時00分まで)入館は閉館の30分前
休館日:毎週月曜日
観覧料:一般800円/学生700円/中高生・65歳以上600円
東京都写真美術館
東京都目黒区三田1‐13‐3恵比寿ガーデンプレイス内
JR恵比寿駅東区地より徒歩約7分
東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分
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